「漏斗胸だから、体力がないのは仕方ない」

そう言われたことがある人、あるいは自分でそう思ってきた人は、少なくないと思います。私もそうでした。 走れば同年代についていけない。それを胸のせいにして、納得したような、していないような気持ちで過ごしてきました。

では実際のところ、漏斗胸の人の運動能力は、数字で見るとどうなのか。 2026 年に、その問いに答えるためのレビューが発表されました。

先に結論

  • 手術を受けていない漏斗胸の人の運動能力を、31 研究・2937 人ぶん集めたレビューが 2026 年に出ました
  • 予測値に対する最大酸素摂取量(VO2max %predicted)は、62% ± 25% から 101.0% ± 18.3% まで、研究によって大きく幅がありました
  • つまり「漏斗胸だから運動能力が低い」と一律には言えません。ほぼ標準的な値を示す集団も報告されています
  • 一方で、全体としては低下する傾向がみられる、というのが著者らのまとめです
  • さらに著者らは、酸素の運び方に関わる指標がほとんど測られていないことを問題として指摘しています
  • この幅が「体質の違い」なのか「運動習慣の違い」なのかは、このレビューからは切り分けられません

31 研究・2937 人を集めたら、何が見えたか

B RCT・前向き観察 physical-improvement

漏斗胸患者の運動能力は低下しているのか? エビデンスのスコーピングレビューと運動時の動脈血酸素含量の役割

Lokietek M et al. · 2026 · Physiological Reports
・手術を受けていない(non-operated)漏斗胸患者の心肺フィットネスを整理したスコーピングレビュー
・612 件から 31 研究・患者 2,937 名を統合
詳細を見る →

フランスの研究チームが、4 つのデータベースから 612 件の文献を集め、条件を満たした 31 研究・患者 2937 名を整理しました(2025 年 2 月まで)。

この研究の重要な特徴は、手術を受けていない人(non-operated)を対象にしていることです。 漏斗胸の運動能力に関する研究の多くは「手術の前後でどう変わったか」を見ていますが、このレビューは手術していない状態そのものを集めています。当サイトの読者層と、対象が一致します。

数字の幅が、想像以上に大きい

**VO2max(最大酸素摂取量)**とは、体が 1 分間に利用できる酸素の最大量のことで、持久的な体力の指標として使われます。 VO2max %predicted は、それが「同年代・同性・同体格の人の平均的な予測値に対して何 % か」を示す数字です。100% なら予測値どおり、80% ならその 8 割、ということになります。

その値が、研究によって 62% から 101% まで散らばっていた。 これは「漏斗胸の人の運動能力は◯%です」と一つの数字で語れない、ということを意味します。

そのうえで著者らは、全体としては運動能力が低下している傾向がみられるとまとめています。 「一律ではない」ことと「傾向がない」ことは別です。ここは分けて読む必要があります。

また、標準に近い値を示した集団も報告されていますが、それだけで個人が安全・正常と判断できるわけではありません

著者らが問題視したのは「測られていないこと」

このレビューにはもう一つ、当事者として気になる指摘があります。

運動中に息が上がるとき、体では「肺で酸素を取り込み、血液で運び、筋肉で使う」という流れが起きています。 漏斗胸で息切れが起きる理由を考えるなら、酸素をどれだけ運べているかは重要な情報のはずです。

ところが——

測定項目31 研究のうち
ヘモグロビン濃度を定量報告していた研究わずか 1 研究
パルスオキシメトリ(血中酸素飽和度)を測定15 研究(定量報告は 4 研究のみ:95.5% ± 2.1% 〜 97.4% ± 1.2%)
血液ガスを評価5 研究(結果報告は 2 研究のみ

著者らは、運動時の酸素運搬に関わる指標が 系統的に報告不足であると指摘しています。

つまり「漏斗胸の人はなぜ息が上がりやすいのか」を説明するために必要なデータが、そもそも集められていない。 これは「答えがまだ出ていない」というより、「測られてこなかったから答えようがない」に近い状態です。

この結果を、どう受け止めるか

ここが一番大事なところだと思います。

そのうえで、私がこのレビューから受け取ったのは次の点です。

「漏斗胸だから体力がない」という説明は、思っていたより雑だった。

標準に近い値を示す集団も報告されている以上、胸の形だけで運動能力が決まるわけではありません。 実際、同じレビューの中でも、参加者の背景によって結果が変わっています。

「構造」なのか「運動不足」なのかは、これでは分からない

ただし、このレビューは原因を切り分けていません

運動能力の低下がみられたとして、その理由が

  • 胸郭の構造による制限なのか
  • 運動を避けてきたことによる体力低下(デコンディショニング)なのか
  • その両方が混ざっているのか

は、このレビューからは判断できません。

この切り分けについては、当サイトの漏斗胸で息切れ・疲れやすいのはなぜ?で扱っています。 そちらでも触れていますが、

漏斗胸の矯正後の心肺フィットネス:系統的レビューとメタ解析

詳細を見る → のメタ解析では、手術で凹みを矯正しても、交絡を調整すると心肺フィットネスが明確に改善するとは言えなかったと報告されています(含まれた 15 研究すべてが非ランダム化で、質にも限界があります)。

「構造を直せば運動能力が戻る」という単純な図式ではない、ということです。

このレビューの限界

  • スコーピングレビューであり、統合した効果量を算出するメタ解析ではありません。「漏斗胸の人の VO2max は平均◯%」と述べるものではありません
  • 研究間の異質性が大きいため、単一の数値で結論を出せません
  • 運動能力の低下が構造由来か運動不足由来かを切り分けていません
  • 含まれた研究の対象年齢・重症度・測定プロトコルはさまざまです
  • 「手術を受けていない人」が対象ですが、その中には手術を検討中の重症例も、そうでない人も含まれます

当事者として、どう受け止めたか

正直に言えば、少しだけ肩の力が抜けました。

「漏斗胸だから走れない」と自分に言い聞かせてきた時期があります。その説明は分かりやすくて、諦める理由としても便利でした。

でも数字を見ると、標準に近い値を出している集団も報告されている。だとすれば、私が走れなかったのは胸のせいだけではなく、走ってこなかったことも、一因だったのかもしれません。

もちろん逆もあります。本当に構造由来で制限されている人もいる。だから「気の持ちよう」の話にする気はまったくありません。

言えるのは、「漏斗胸だから」で全部を説明してしまうと、そこで考えが止まるということです。 自分の場合はどうなのかは、受診と、実際に体を動かしてみることでしか分かりません。

なお、「では自分は何を基準に運動の可否を考えればいいのか」という問いについては、2026 年の別の報告が Haller index は使えないことを示しています。漏斗胸でスポーツは何をやっていいのか:凹みの深さだけでは決められない で扱っています。

大切な但し書き

  • 本記事はレビュー論文の紹介であり、個別の運動可否を判断するものではありません
  • 運動中の胸痛・強い動悸・失神、安静時の息切れがある場合は、運動より先に医療機関を受診してください
  • 運動を始める・強度を上げる際は、心肺の状態について医師に相談することをおすすめします
  • 数値は研究ごとの報告であり、個人の状態を予測するものではありません

まとめ

  • 手術を受けていない漏斗胸の人を対象に、31 研究・2937 人を整理したレビューが 2026 年に発表された
  • 予測値に対する最大酸素摂取量は 62% 〜 101% と研究間の幅が大きく、一つの数字では語れない
  • 全体としては低下傾向がみられるが、ほぼ標準的な集団も報告されている
  • 酸素運搬に関わる指標(ヘモグロビン・血中酸素飽和度・血液ガス)はほとんど測られていない
  • 低下が構造由来か運動不足由来かは、このレビューでは切り分けられていない
  • 「ばらつきが大きい=自分は大丈夫」ではない。受診サインがあれば運動より先に受診

この記事の数字だけで、自分の運動能力を判断することはできません。 気になる症状がある場合も、運動を始める場合も、医療機関で相談してください。

「数字」ではなく息切れの仕組みを知りたい方は漏斗胸で息切れ・疲れやすいのはなぜ?へ、体を動かす具体的な入り口は漏斗胸の筋トレ総合ガイドにまとめています。