「漏斗胸の手術って、調べたら 150 万円くらいって書いてあった。そんなの無理だ」
手術を考え始めた人が、費用のページで手が止まる。これはとてもよくある反応だと思います。 私自身も、最初に目にした総額の数字だけで「自分には縁のない話だ」と感じたことがあります。
でも、この「150 万円」という数字は、実際にあなたの手元から最終的に出ていくお金とは別物です。 日本では漏斗胸の手術は健康保険の対象で、さらに負担を抑える公的制度がいくつも重なります。
この記事では、保険が効くのか・実際にいくら払うのか・負担を下げる制度・自費になるものは何かを、公的制度と医療機関の情報をもとに整理します。
結論:漏斗胸の手術は、原則として保険適用
先に答えから書きます。
日本では、医師が手術の適応を判断し、Nuss 法などを保険診療として実施する場合、健康保険の対象になります。 つまり、ほかの病気の手術と同じように、原則 3 割負担(年齢・所得により 1〜3 割)で受けられます。
- 医師が診察・画像所見(Haller indexなど)・症状を総合して手術適応を判断し、保険診療として手術を行う流れです。Haller index の数値だけで保険適用が自動的に決まるわけではありません
- 成人でも保険診療で手術を受けられます。「大人になってから相談した」ことだけを理由に保険外になるわけではありません
- 小児だけでなく成人例も扱う漏斗胸専門外来が各地にあります
手術そのものの流れ・入院期間・合併症については、Nuss 法(漏斗胸の手術)とは:流れ・費用・リスクを論文ベースで整理で詳しく扱っています。この記事は、そのなかでもお金の部分に絞った深掘りです。
いちばん大事なこと:お金の流れは 4 つの段階に分ける
費用の話で混乱するのは、「総医療費」と「窓口で払う額」と「最終的な自己負担」がごちゃ混ぜになるからです。 段階を分けて考えると、一気に見通しが良くなります。
| 段階 | 何の金額か | 目安 |
|---|---|---|
| ① 総医療費(10 割) | 保険診療分すべての医療費 | 約 120〜150 万円 |
| ② 法定自己負担(原則 3 割) | 高額療養費を考慮する前の 3 割相当額 | 約 36〜45 万円(窓口で全額払うとは限らない → 後述) |
| ③ 高額療養費の適用後 | 保険診療分について 1 か月あたりの上限まで(差額ベッド代・食事代などは別) | 年齢・所得・診療月などで異なる |
| ④ 公費・付加給付の適用後 | 対象者のみ、さらに軽減 | 育成医療・健保組合の付加給付など(対象になる人だけ) |
「150 万円」というのは、たいてい ① の総医療費の話です。 原則 3 割負担の人では、公的医療保険から 7 割が給付されるため、高額療養費を考慮する前の自己負担は総医療費の 3 割にあたる **約 36〜45 万円(②)**です(ただし窓口で限度額を確認できる場合、この全額をいったん支払うとは限りません)。 さらに ③ の高額療養費制度で、1 か月あたりの自己負担に上限がかかります。 この上限は「安く一律」ではなく、年齢・所得区分・診療月などによって数万円台から 20 万円を超える区分まで幅があります。人によっては、そこに ④ の公費・付加給付が重なってさらに下がることもあります。
言いたいのは「だから安い」ではありません。 「総医療費の 150 万円」と「あなたが最終的に負担する額」は別物であり、所得・診療月・公費・保険外費用を分けて確認する必要がある、ということです。
高額療養費制度:月ごとに自己負担の上限がかかる
日本の公的医療保険には、高額療養費制度という仕組みがあります。 これは、**同じ月(1 日〜末日)にかかった医療費の自己負担が一定額を超えると、超えた分が戻ってくる(または最初から上限までで済む)**制度です。
- 上限額は所得区分によって決まります(収入が低いほど上限も低い)
- 上限は一律ではなく、低所得の区分では月 3 万円台、高所得の区分では月 20 万円を超えることもあります
- 上限額は診療報酬・制度改定で変わります(前述のとおり 2026 年 8 月から見直しが予定されています)。正確な額は必ず「診療を受ける月」で、厚生労働省または保険者に確認してください
マイナ保険証、または「限度額適用認定証」を使う
高額療養費は、後から申請して払い戻す形が基本ですが、窓口での支払いを最初から上限額までに抑える方法があります。
- マイナ保険証を使えば、オンライン資格確認に対応した医療機関では限度額の情報が提供されるため、原則として事前の申請なしで窓口負担が上限までになります
- マイナ保険証を使えない場合などは、事前に「限度額適用認定証」を保険者からもらっておくと同じように上限までで済みます
- 住民税非課税世帯などでは、高額療養費の限度額に加えて入院時の食事代が減額される場合があります。マイナ保険証だけで確認できる範囲と、別途「限度額適用・標準負担額減額認定証」などの手続きが必要な範囲は、加入保険者や状況によって異なります。入院前に保険者へ確認してください
いずれにしても、まとまった額を一旦立て替えなくてよくなるので、入院前に準備しておくと安心です。
- 会社員・被扶養者 → 協会けんぽ または 勤務先の健康保険組合
- 自営業・無職など → お住まいの市区町村(国民健康保険)
正確な上限額の計算は所得や年度で変わるため、厚生労働省の高額療養費制度の案内や、加入している保険者の窓口で確認してください。
18 歳未満・その他の公的支援
年齢や状況によっては、高額療養費制度に加えて、さらに負担を下げる制度が使えます。
育成医療(18 歳未満・対象要件あり)
18 歳未満であれば自動的に対象になる制度ではありません。 自立支援医療(育成医療)は、身体に障害がある、または治療しなければ将来障害を残すと認められる児童で、手術などによって障害の除去・軽減が確実に期待できることなどが条件です。 利用には、自治体の認定と指定自立支援医療機関での治療、原則として事前の申請が必要です。
漏斗胸の手術が対象になるか、自己負担がいくらになるかは、自治体・所得・医療機関によって異なります。使えるかどうかを含めて、病院の相談窓口や市区町村の障害福祉・保健の窓口へ早めに確認してください。
更生医療(成人・対象は限定的)
自立支援医療(更生医療)は、身体障害者手帳を持つ成人が、その障害を除去・軽減する治療を受けるための制度です。 ただし、一般的な漏斗胸手術がこの制度の対象になるとは限りません。すでに手帳を持ち自治体から制度案内を受けている人は、担当窓口へ対象になるかを確認してください。
子ども医療費助成
自治体によっては、子どもの医療費助成(乳幼児・子ども医療費助成)で、育成医療とは別に自己負担がさらに軽くなる場合があります。これも住んでいる地域によって内容が大きく違います。
保険が効かない・追加でかかるもの
「保険適用」といっても、すべてが 3 割で済むわけではありません。 見落としやすい出費を挙げておきます。
- バー抜去手術:Nuss 法では数年後に金属バーを抜く手術がもう一度必要です(時期は年齢・経過・施設の方針によって幅があります)。これも保険は効きますが、別の入院・別の費用です。総額を考えるときは「入れる手術+抜く手術」で見積もる必要があります
- 差額ベッド代(特別療養環境室料):個室や少人数部屋を希望・同意した場合にかかる差額で、全額自費(高額療養費の対象外)です
- 入院中の食事代:一部自己負担があります
- 通院・検査・交通費:手術前後の外来通院、遠方の専門施設への交通・宿泊費など
- バキュームベル(吸引ベル):手術ではない選択肢ですが、これは自費(保険適用外)です。日本では医療機関の案内で器具代が 10〜20 万円程度とされる例がありますが、診察・検査費を含むか、現在の価格は施設ごとに異なるため受診先へ確認してください(詳しくは漏斗胸の吸引ベル(バキュームベル)とは)
費用を確認するときに、実際にやること
数字はあくまで目安なので、自分のケースの金額は自分で確認するのがいちばん確実です。 以下の順で進めると、抜けが出にくくなります。
- 受診先の医事課に聞く … 「保険適用になるか」「手術と入院の概算自己負担」「高額療養費を使ったあとの目安」。医療機関はこの質問に慣れています
- 加入している保険者に確認する … 「限度額適用認定証」の申請方法と、付加給付があるか。保険証に記載の保険者へ
- 18 歳未満なら自治体の育成医療窓口へ … 申請は手術前に。子ども医療費助成もあわせて確認
- バー抜去まで含めた総額で考える … 「入れる手術」だけでなく「抜く手術」も見積もりに入れる
- 差額ベッドを希望するかを決めておく … 希望しないなら入院前に伝える
大切な但し書き
- 本記事は制度と医療機関情報を整理した一般的な解説であり、個別の医療判断・金額の保証ではありません
- 保険適用の可否・自己負担額・各制度の内容は、年度・自治体・所得・加入している保険・医療機関によって変わります
- 記事内の金額はすべておおよその目安です。正確な額は必ず受診先の医事課と保険者に確認してください
- 手術を受けるかどうかの判断そのものは、費用だけでなく症状・年齢・リスクを含めて、医師との対話のなかで決めるべきものです
手術をするかどうかで迷っている段階の人は、漏斗胸の手術を迷ったときに読む:Haller index・症状・心理面の判断材料を、まず何科に行けばいいか分からない人は漏斗胸は何科に相談すればいい?を参照してください。
まとめ
- 漏斗胸の手術(Nuss 法など)は、日本では医師が適応を判断し保険診療として行う場合、原則として健康保険の対象(3 割負担)
- よく見る「総額 150 万円」は 10 割の金額。あなたが最終的に負担する額とは別物です。法定 3 割 → 高額療養費で月ごとの上限 → 対象者は公費・付加給付、と段階を分けて確認する
- 高額療養費の上限は「安く一律」ではなく、年齢・所得区分・診療月で数万円台〜20 万円超まで幅がある。2026 年 8 月診療分から見直しが予定されているため、必ず最新額を確認する
- 育成医療(18 歳未満)は対象要件があり、自動適用ではない。バー抜去手術・差額ベッド代・バキュームベルは別費用(バキュームベルは自費)
- 正確な金額は、受診先の医事課と加入している保険者に必ず確認する
「費用が高そうだから」という理由だけで相談自体をあきらめてしまうのは、もったいないと思います。 まずは制度を知り、そのうえで手術という選択肢を検討するかどうかを考えれば十分です。
漏斗胸そのものの全体像は漏斗胸とは?胸の凹みだけではない身体・見た目・生活への影響から、手術以外にできることは漏斗胸は治せる?大人が手術なしでできること・できないことから読めます。