「そこそこ食べているつもりなのに、体重が半年間まったく変わらない」——痩せ型で増量したい人が、いちばん最初にぶつかる壁です。
先に前提を置きます。体重が増えても、胸骨の凹みそのものが埋まるわけではありません。ただし、痩せて骨や凹みのコントラストが強く出ている状態から変わることで、見え方の印象が変わる可能性はあります。この視覚面の整理は漏斗胸と痩せ型の関係で扱っています。
前回の記事では、筋肉を増やすための 3 点として「不足しないエネルギー摂取・十分なタンパク質・漸進性のある筋トレ」を挙げました。この記事は、そのうち 1 番目のエネルギーを具体的にどう見積もるかを扱います。
そして最初に断っておくと、カロリー計算は必須ではありません。計算が負担な人向けの方法も §5 に用意しています。
0. 先に結論
- 体重が増えても、胸骨の凹みそのものは埋まりません
- 「食べているのに増えない」場合、週間の摂取量が消費量を十分に上回っていないか、追加分が活動量の増加などで相殺されている可能性があります
- 消費カロリーの目安は計算式で出せますが、あくまで推定値です。最終的な調整材料は、数週間単位の体重推移にあります
- 増やす量は 1 日あたり 150〜300 kcal 程度から。急激な増量は必要ありません
- カロリー計算は必須ではありません。「今の食事+α を足して、体重の推移を見る」だけでも調整できます
- 極端な少食が続く場合や、食事・体重への強い不安がある場合は、数値を自己判断で追わず医療機関・管理栄養士へ相談してください
1. 「食べているのに増えない」とき、何が起きているか
「食べているつもり」と実際の週間摂取量には、ずれが生じることがあります。食事量や間食の記録には誤差が出やすく、日による食事量の揺れもあるためです。
- 食事のたびに量がまちまち
- 忙しい日は 1 食抜ける
- 「昨日はたくさん食べた」の翌日に無意識で減らしている
また、食事を増やすと無意識の活動量が増え、追加したエネルギーの一部が相殺される人もいます。じっとしているつもりでも、体は勝手に帳尻を合わせにきます。
したがって、「増えない=努力不足」と決めつけるのではなく、まず数日間の食事内容と、2〜4 週間の体重推移を確認するところから始めます。
体重が数か月単位で動いていないなら、それは「今の平均摂取量が、今の消費量とほぼ釣り合っている」という状態を示しています。責める材料ではなく、調整のための情報です。
2. 消費カロリーを見積もる
自分がどれくらい消費しているかは、計算式で概算できます。よく使われるのが Mifflin-St Jeor 式です。
ステップ 1:安静時エネルギー消費量(REE)
横になって何もしなくても、呼吸・循環・体温維持などに使われるエネルギーの推定値です。一般には「基礎代謝の計算式」と紹介されることもありますが、**Mifflin-St Jeor 式が推定するのは厳密には REE(安静時エネルギー消費量)**です。
男性:10 × 体重(kg) + 6.25 × 身長(cm) − 5 × 年齢 + 5 女性:10 × 体重(kg) + 6.25 × 身長(cm) − 5 × 年齢 − 161
例:30 歳・男性・体重 55 kg・身長 170 cm → 10 × 55 + 6.25 × 170 − 5 × 30 + 5 = 550 + 1062.5 − 150 + 5 = 約 1468 kcal
ステップ 2:一般的な活動係数で TDEE を仮置きする
REE に活動係数を掛けて、1 日の総消費量を概算します。以下は一般に使われる簡易的な目安であり、Mifflin-St Jeor 式そのものに含まれる係数ではありません。仕事中の活動量、歩数、運動時間などによって大きくずれます。
| 生活スタイル | 仮の係数 |
|---|---|
| 座位中心・運動ほぼなし | 1.2 |
| 座位中心+週数回の軽い運動 | 1.3〜1.4 |
| 日常活動が多い、または継続的な中強度運動 | 1.5 前後 |
| 身体活動の多い仕事+高頻度運動 | 1.7 前後 |
先ほどの例で、座位中心の仕事だが週 3 回筋トレをする人なら、まず 1.35〜1.5 程度で仮置きします。 1468 × 1.4 = 約 2055 kcal(1.5 なら約 2200 kcal)
これが「体重を維持するのに必要な、おおよその量」の出発点です。あくまで仮置きで、体重推移から補正していきます。
3. どれだけ足すか
推定した維持量に対して、まずは 5〜10% 程度、または 1 日 150〜300 kcal 程度を追加し、2〜4 週間の推移で調整する方法が扱いやすいでしょう。もともと極端に少食な人や活動量が高い人では、さらに追加が必要になる場合があります。
先ほどの例(仮置き 2055〜2200 kcal)なら、2300 kcal 前後から始める形になります。
大量に足す必要はない理由
「早く増やしたい」と一気に増やすと、増えた分の多くが体脂肪になりやすくなります。前回の記事で触れたとおり、筋肉の合成には筋トレという刺激が必要で、エネルギーだけ大量に入れても筋肉に優先的に回るわけではありません。
目安を置くなら、週あたり体重の 0.25〜0.5% 程度のゆるやかな増加から始め、脂肪の増え方やトレーニング歴に応じて調整します。体重 55 kg なら月 0.5〜1 kg 程度に相当します。
半年で数 kg の変化が積み上がれば、服のフィット感や体のシルエットに違いを感じる人もいます。ただし、増えた内訳や見え方には個人差があります。焦って 1 か月で 5 kg 増やす必要はありません。
何を足すか
タンパク質の目安については前回の記事と1食の量より1日の総量で扱っています。この記事のテーマである「総エネルギー」を足すなら、
- 主食(米・パン・麺)の量を少し増やす
- 食事に 1 品足す(卵・納豆・チーズなど)
- 間食を 1 回入れる(ナッツ・ヨーグルト・おにぎり)
- 飲み物をカロリーのあるものにする(牛乳・豆乳・飲むヨーグルト・果物を使ったスムージーなど)
固形食が入りにくい場合は、通常の食事を基本にしつつ、飲み物で補う方法もあります。朝食が入らない場合の具体策は漏斗胸で朝食が入らない人へを参照してください。
4. 増えているかを確かめる
計算より、こちらのほうが重要です。計算式より、数週間の体重トレンドのほうが実用上は信頼できます。
体重の測り方
- 測るのは同じ条件で(起床後・トイレの後・食事の前など)
- 1 日の変動は 1 kg 前後あるのが普通です(水分・食事内容による)
- 日々の上下ではなく、週の平均で見る
- 毎日測れる人は、直近 7 日間の平均値を前週の平均値と比べると、水分変動に振り回されにくくなります。毎日測ることが負担なら、週 1〜3 回でも構いません
判断の仕方
2〜4 週間ほど記録して、
- 平均がゆるやかに上がっている → そのまま続ける
- 平均が変わらない → 1 日あたり 200 kcal 程度足してみる
- 急に増えている → ペースを少し落としてもよい
このサイクルを回せば、最初の計算が多少ずれていても、実測で修正されていきます。
5. 計算しない方法
ここまで計算式を紹介してきましたが、カロリー計算は必須ではありません。むしろ、続かない人のほうが多いくらいです。
計算せずに調整するなら、次の手順で足ります。
- 今の食事を変えないまま、1 つだけ何かを足す(間食 1 回・牛乳 1 杯など)
- その状態を 2〜4 週間続ける
- 体重が上がってきたら、そのまま継続する
- 変わらなければ、もう 1 つ足す
計算で出す数値は「出発点の見当をつける」ためのもので、この手順を踏めば同じ場所にたどり着きます。計算が負担なら、やらなくて構いません。
6. それでも増えないときに見直す点
数か月続けても動かない場合、次を分けて確認します。
- 本当に足せているか:数日でも実際の摂取内容を書き出してみると、思ったより足せていないことがあります
- 活動量が増えていないか:食事を増やした分、活動も増えていることがあります
- 睡眠・体調:睡眠不足や体調不良が続くと、食欲そのものが落ちます
- 筋トレの負荷:体重ではなく「筋肉として増やす」観点では、筋トレの漸進性も要素になります(前回の記事)
そして、極端に食べられない状態が続く場合は、消化器の症状や他の要因が関わっている可能性もあります。自己流の増量で押し切らず、医療機関へ相談してください。
7. 期待できること・できないこと
期待できる可能性があること
- 体重・筋量の増加
- 痩せて凹みや骨が強調されている状態のコントラストが和らぐこと
- 服のサイズ感の変化
期待しない方がよいこと
- 凹みそのものの深さが埋まること
- 食べる量を増やすだけで(筋トレなしで)筋肉が増えること
- 短期間での劇的な体型変化
- 計算どおりに体重が動くこと(推定式には個人差があります)
まとめ
- 体重が増えても、胸骨の凹みそのものは埋まらない
- 「食べているのに増えない」ときは、週間の摂取量が足りていないか、追加分が活動量の増加で相殺されている可能性がある
- 消費量は Mifflin-St Jeor 式(推定するのは REE)などで概算できるが、あくまで推定値。活動係数は簡易的な外付けの目安
- 足すのは 1 日あたり 150〜300 kcal 程度から。週あたり体重の 0.25〜0.5% のペースで十分
- 計算は必須ではない。「1 つ足して 2〜4 週間、体重の推移を見る」でも同じところに着く
- 体重の数値へのこだわりが強くなっている場合は、測定頻度を落とすか、専門家へ相談する
カロリー計算は、地図のようなものです。方向の見当をつけるのには役立ちますが、実際に歩いているかどうかを教えてくれるのは体重計のほうです。地図が苦手なら、持たずに歩いても構いません。
本記事で紹介した推定式・目安は、一般的な栄養学の計算法に基づくものであり、漏斗胸の当事者を直接対象にした研究ではありません。持病のある方、極端な少食が続く方、食事や体重への不安が強い方は、食事を大きく変える前に医療機関・管理栄養士へ相談してください。