風呂上がりに鏡を見て気づいた。 着替えのときに、ふと手が触れた。 写真に写った自分の胸が、なんだか他の人と違う気がした。

胸の真ん中が、出ている。あるいは、凹んでいる。

そこから検索してこのページに来た人が、いちばん最初に知りたいのは「これは何なのか」だと思います。名前が分からないものは、調べようがないからです。

この記事は、その名前を整理するだけのものです。

先に結論

  • 胸の中央が凹む形には「漏斗胸(ろうときょう)」、前へ突き出す形には「鳩胸(はときょう)」という名前がついています
  • どちらも、単に姿勢が悪いことで生じるものとは考えられていません。原因は完全には分かっていませんが、胸骨につながる肋軟骨などの発育が関係すると考えられています
  • ただし、胸骨の下端にある「剣状突起」は正常な構造の一部です(触れやすさには個人差があります)。「みぞおちの上に硬い出っ張りがある」と感じるとき、これに触れていることもあります
  • 痩せていると、変形がなくても骨の形がそのまま見えます。目立つこと自体は変形の証明になりません
  • 左右で違う・凹みと突出が混ざるなど、教科書どおりに割り切れない形もあります
  • 名前が分かっても、それは診断ではありません。 気になるなら、次は検索ではなく受診です

胸骨が出ているように見えるとき、まず知っておきたい構造

「胸の真ん中の、下のほうに硬い出っ張りがある」

この感覚で調べる人は少なくありません。ここで先に押さえておきたい解剖の話があります。

胸骨は、上から胸骨柄・胸骨体・剣状突起の 3 つの部分でできています。いちばん下の剣状突起は、正常な構造の一部です。形や向き、触れやすさには個人差があります

体格や姿勢によっては、これが皮膚の上から触れたり、見えたりします。痩せている人ほど分かりやすくなります。

名前がついている 2 つの形

胸骨と肋軟骨の育ち方のかたよりで起こる胸郭の変形には、方向によって別々の名前がついています。

あなたが見ているものついている名前胸骨の向き
胸の中央がへこんでいる漏斗胸(pectus excavatum)後ろ(背中側)へ凹む
胸の中央が前に出ている鳩胸(pectus carinatum)前へ突き出す

漏斗(じょうご)のように凹むから漏斗胸、鳥の胸のように張り出すから鳩胸——名前はそのまま見た目から来ています。

先天性の胸郭変形のなかでは凹むタイプのほうが多く、両者の比率はおよそ 5 対 1(鳩胸は漏斗胸の約 1/5)とされることが多いものの、数値は研究や集団によって幅があります。

気づかれる時期にも傾向の違いがあります。

  • 漏斗胸:出生時や乳児期から確認されることが多いとされます。思春期の急成長で凹みが深くなったり、そこで初めて意識されたりすることもあります
  • 鳩胸:思春期の成長に伴って前方への突出が目立ってくることが多いとされます

大人になってから気づいた」という人もいます。以前からあった形が、体型の変化や写真、鏡をきっかけに初めて目に留まることはあります。

ただし、実際に短期間で形が変わっている場合まで「前からあっただけ」と決めることはできません。 数週間〜数ヶ月で変化した、痛み・腫れ・熱感を伴う、胸をぶつけた後から変わった——といった場合は、医療機関で確認してください。

なお、この 2 つの形は運動時の心肺の応答にも違いがあることが報告されています(

鳩胸 vs 漏斗胸の小児における運動時心肺応答の比較

詳細を見る →)。両者を並べて比べた整理は漏斗胸と鳩胸の違いにまとめています。

「痩せているから目立つ」場合があります

もう一つ、切り分けておきたいことがあります。

体脂肪が少ないと、胸骨も肋骨もそのまま形が見えます。 肋骨が浮いて見える、胸骨のラインがはっきり出る、というのは、変形がなくても起こります。

逆に、体格や軟部組織の厚さによって、同じ骨格でも外からの見え方は変わります

ですから、「目立つ」ことと「変形がある」ことは同じではありません。そして同じ理由で、見え方だけから胸郭変形の有無や程度を判断することはできません。体型と見え方の関係は漏斗胸と痩せ型の関係で扱っています。

教科書どおりに割り切れない形もあります

「凹んでいる気もするし、出ている気もする」 「左右で高さが違う」

こうした感覚は珍しいものではありません。実際に、次のような形が知られています。

  • 左右で凹み方・出方が違う非対称のもの
  • 凹みと突出が混在する混合型
  • 弓状に見える中間タイプ(Pectus Arcuatum と呼ばれることがあります)

自分がどれに当たるかを、鏡や写真だけで確定させる必要はありません。 というより、確定できません。分類は、医師が診察と画像で行うものです。

それでも受診をためらう理由のほうが、たぶん重い

ここまで読んで、「病院に行くほどでもない気がする」と思った人がいるはずです。私もそうでした。

痛くない。困っていない。見た目だけの話で行くのは大げさな気がする——。

でも、この記事を検索するところまで来ている時点で、あなたはすでに気にしています

もちろん、検索しているだけで胸壁変形があると判断できるわけではありません。そのうえで、実際に胸壁変形がある人については、見た目の負担を軽視できないことが報告されています。

2026 年に発表されたレビューは、胸壁変形のある思春期・若年成人について、診断可能な精神疾患がない場合でも、身体イメージの障害・自尊心の低下・社会的回避・QOL の低下が一貫して報告されている、と整理しました(

思春期・若年成人における先天性胸壁変形の心理的影響

詳細を見る →)。

次にやること:検索ではなく、受診

名前が分かったところで、この記事の役目は終わりです。ここから先は情報を増やすより、確かめるフェーズになります。

小児では小児外科成人では呼吸器外科・形成外科などが扱うことがあり、胸郭変形の専門外来があればそちらも選択肢です。ただし施設によって担当科がかなり異なります。分からなければ、かかりつけ医や総合診療の窓口に相談して差し支えありません。科ごとの整理は漏斗胸は何科に相談すればいい?にまとめています。

受診の前に自分の状態を言葉にしておきたい場合は、漏斗胸のセルフチェックが整理の材料になります(これも診断ではなく、医師に伝える内容を準備するためのものです)。

この記事で言えないこと

  • あなたの胸がどの形に当たるかは判断できません。写真でも触診の感覚でも、自己判断で確定はできません
  • 胸の出っ張り・凹みの原因は、ここで挙げた先天性の胸郭変形だけではありません。他の原因を除外することは、この記事にはできません
  • 頻度や気づかれる時期の傾向は、研究や集団によって幅があります
  • 引用した心理面のレビューはナラティブレビューであり、対象は思春期〜若年成人が中心です。成人期にそのまま当てはまるとは限りません

まとめ

  • 胸の中央が凹む形=漏斗胸前へ出る形=鳩胸という名前がついている
  • どちらも単に姿勢が悪いことで生じるものとは考えられていない。原因は完全には分かっていない
  • 胸骨の下端の剣状突起は正常な構造の一部(触れやすさには個人差がある)。ただし触れている出っ張りがそれかどうかは自分では確定できない
  • 見え方だけから、胸郭変形の有無や程度は判断できない。「目立つ」=「変形がある」ではない
  • 左右差・混合型など、割り切れない形もある。分類は医師の仕事
  • 成人してから気づくこともある。ただし短期間の実際の変化は自己判断せず受診する
  • 強い胸痛・呼吸困難・失神は救急。急な形の変化・痛み・腫れ・外傷後の変化は早めに受診

名前が分かると、少し落ち着きます。私もそうでした。ただし落ち着くことと、確かめることは別です。

この記事は入口です。出口は検索結果ではなく、診察室にあります。


本記事は、胸郭変形の一般的な整理と、Abushahin 2025・Children 2026 のレビューに基づいてまとめたものです。個別の状態については医療機関にご相談ください。