「漏斗胸の人は姿勢が崩れやすい」——このサイトでも繰り返し書いてきました。
では、実際に何割の人がそうなのか。2026 年 4 月に、268 人ぶんの診療記録からその割合を集計した研究が出ました。
数字は出ます。前方頭位 90.3%、巻き肩 81.7%、胸椎後弯 67.1%、側弯 50.7%——並べるとかなり強い印象を与えます。
ただ、この記事でいちばん伝えたいのは、その数字ではありません。
同じ「側弯」という言葉が、測り方によって 50.7% にも 13.1% にもなるということのほうです。
先に結論
- 漏斗胸 166 人・鳩胸 85 人・混合 17 人(計 268 人・10〜18 歳)の診療記録を後ろ向きに集計した研究です
- 漏斗胸群では、前方頭位 90.3% / 巻き肩 81.7% / 胸椎後弯 67.1% / 側弯 50.7% などが報告されました
- 🔴 この側弯 50.7% は、X 線で Cobb 角を測って確定した割合ではありません。 著者自身が「脊柱弯曲の画像による定量が全参加者について得られていない」と限界に記しています
- Cobb 角 10 度以上と厳密に定義した系統的レビューでは、漏斗胸の側弯併発率は 13.1%。同じ対象でも評価方法で約 4 倍(50.7 ÷ 13.1 ≒ 3.9 倍)変わります
- 🔴 対照群がありません。 前方頭位 90.3% が「漏斗胸だから高い」のかどうかは、この研究からは言えません
- 鳩胸のほうが、胸椎後弯・側弯・肩の非対称・腰椎前弯増強で有意に高い割合を示しました
- 対象は思春期です。成人にそのまま当てはめられません
何を調べた研究か
漏斗胸・鳩胸の思春期患者における姿勢の変化:後ろ向き観察研究
トルコの小児外科と胸部外科(Pectus Clinic)が、2018〜2024 年に胸壁変形で評価を受けた患者の診療記録を後ろ向きに集計したものです。
| 対象 | 268 名(漏斗胸 166 / 鳩胸 85 / 混合 17) |
| 年齢 | 10〜18 歳(平均 15.6 ± 1.7 歳) |
| 性別 | 86.9% が男性 |
| デザイン | 後ろ向き・単一施設・記述的観察研究・対照群なし |
| 姿勢の評価 | 初回の標準化された身体診察の中で実施 |
変形の重症度は年齢とともに増加していました(P = 1.24 × 10⁻⁷)。ただし後ろ向きの横断デザインなので、「年齢とともに進行する」という因果として読むことはできません。
漏斗胸群の姿勢所見
| 所見 | 漏斗胸(166 名) |
|---|---|
| 前方頭位 | 90.3% |
| 巻き肩 | 81.7% |
| 胸椎後弯 | 67.1% |
| 肩の高さの非対称 | 59.6% |
| 腰椎前弯の増強 | 54.1% |
| 側弯 | 50.7% |
| 前方骨盤傾斜 | 27.1% |
| 腰椎前弯の減少 | 24.1% |
🔴 ここが本題:同じ「側弯」が 50.7% と 13.1%
当サイトの漏斗胸と側弯症では、別の数字を紹介しています。
漏斗胸(胸郭変形)と思春期特発性側弯症の併発の臨床的意義:ベストエビデンス統合による系統的レビュー
オランダの研究チームが 48 研究を統合し、側弯症を Cobb 角 10 度以上と厳密に定義したうえで算出した漏斗胸の併発率は、13.1%(最も確からしい推定)でした。
今回の研究は 50.7%。約 4 倍の開きがあります(50.7 ÷ 13.1 ≒ 3.9 倍)。
これは、どちらかが間違っているという話ではありません。測り方が違います。
| 今回の研究 | 系統的レビュー | |
|---|---|---|
| 評価方法 | 身体診察(初回の標準化された診察) | X 線・Cobb 角 10 度以上 |
| 数字 | 50.7% | 13.1% |
| 意味 | 「診察で背骨の左右差が見てとれた人」の割合 | 「画像上の基準を満たした人」の割合 |
図にすると、通っている道が違うだけだと分かります。
【今回の研究】 【系統的レビュー】
身体診察 X 線を撮る
↓ ↓
背骨の左右差が Cobb 角を測る
見てとれる ↓
↓ 10 度以上か判定
50.7% ↓
13.1%
=「気になる所見があった人」 =「診断基準を満たした人」
同じ人を測っても、左の道と右の道では残る人数が変わります。 左は「疑わしい人」まで含み、右は「基準を超えた人」だけが残るからです。
そして決定的なのは、この研究の著者自身が限界としてこう書いていることです。
脊柱弯曲の画像による定量は、全参加者について得られていない
骨盤前傾も食い違っています
もう一つ、当サイトの既存記事と突き合わせると気になる数字があります。
漏斗胸と姿勢の関係では、米国の実践家の臨床観察として「漏斗胸者の約 95% に Pectus Posture(巻き肩 + 骨盤前傾)が見られた」という数字を紹介しています。
今回の研究では、巻き肩は 81.7% と近い水準でしたが、前方骨盤傾斜は 27.1% でした。
巻き肩 実践家観察 95%(骨盤前傾とセット) / 今回 81.7% → 近い
骨盤前傾 実践家観察 95%(同上) / 今回 27.1% → 大きく食い違う
これも、どちらかが嘘という話ではありません。実践家の観察は査読付き研究ではなく、今回の研究は身体診察ベースで対照群がありません。「骨盤前傾は漏斗胸にほぼ必発」と考えるのは、少なくとも今回のデータからは支持されない、というところまでが言えることです。
鳩胸のほうが、姿勢異常は多かった
この研究のもう一つの発見です。
| 所見 | 漏斗胸 | 鳩胸 | P |
|---|---|---|---|
| 胸椎後弯 | 67.1% | 92.1% | < 0.001 |
| 側弯 | 50.7% | 80.2% | < 0.001 |
| 肩の非対称 | 59.6% | 80.2% | 0.001 |
| 腰椎前弯の増強 | 54.1% | 72.3% | 0.006 |
| 前方頭位 | 90.3% | 90.6% | 0.921 |
| 巻き肩 | 81.7% | 83.5% | 0.733 |
| 前方骨盤傾斜 | 27.1% | 24.7% | 0.715 |
| 腰椎前弯の減少 | 24.1% | 17.6% | 0.231 |
きれいに分かれています。背骨まわり(後弯・側弯・肩の非対称・腰椎前弯)は鳩胸のほうが多く、頭と肩と骨盤の前後の傾き(前方頭位・巻き肩・骨盤傾斜)には差がありませんでした。
漏斗胸と鳩胸の違いそのものは漏斗胸と鳩胸の違いにまとめています。
🔴 対照群がない、という一番大きな穴
ここまで割合を並べてきましたが、この研究には対照群がありません。著者自身が明記しています。
対照群の欠如が一般化可能性を制限する
これが何を意味するか。前方頭位 90.3% を例にすると分かりやすいと思います。
前方頭位(頭が前に出た姿勢)は、スマートフォンを日常的に使う現代の思春期では、胸壁変形の有無にかかわらず高い割合で見られることが知られています。同年代の一般集団を並べて測っていない以上、「漏斗胸だから 90.3% なのか」「思春期だから 90.3% なのか」を、この研究では区別できません。
たとえば——仮に同年代の一般的な高校生を同じ方法で診察したら 85% だったとします。そうすると 90.3% は「やや高い」程度の話になります。逆に一般が 30% なら、90.3% は明らかに特異です。その比較対象がこの研究には存在しません。(この 85% / 30% はあくまで説明のための仮の数字で、実際の値ではありません。)
なお、姿勢への介入が姿勢の角度を変えうること自体は別の研究で報告されています(→ 漏斗胸に運動療法を足すと何が変わったか)。ただしそれは、この研究とは別の話です。
この研究の限界
- 対照群がありません(著者の記載)。同年代の一般集団と比べて高いのかどうかは判断できません
- 横断的なデザインであり、因果関係を解釈できません(著者の記載)
- 🔴 脊柱弯曲の画像による定量が、全参加者について得られていません(著者の記載)。側弯 50.7% は診断確定の割合ではありません
- 姿勢評価は「初回の標準化された身体診察」とされていますが、評価者や使用機器の詳細は示されていません。視診主体の評価は評価者間のばらつきが出やすい領域です
- 対象は 10〜18 歳。骨格の成長段階が違う成人にそのまま当てはめられません
- 単一施設(トルコ)・後ろ向きのデザインです
- 混合型 17 名は群間比較の表には含まれていません
当事者として、どう受け取ったか
正直に言うと、最初に「側弯 50.7%」を見たとき、少しぞっとしました。
自分の背中の左右差が気になっていた時期があるので、半分がそうなのかと思ったからです。
でも、既存の記事に書いてあった 13.1% と並べて、著者の限界の記述を読んで、印象が変わりました。この数字は「診察で見てとれた」割合であって、「側弯症と確定した」割合ではない。
そして冷静になると、当たり前のことに気づきます。どちらの数字も、自分がどちらに入るかは教えてくれません。
割合を知って安心したり不安になったりするのは、たぶん順番が違います。気になるなら、数字を集めるより先に、一度撮ってもらうほうが早い。私はそう受け取りました。
大切な但し書き
- 本記事は 1 つの観察研究の紹介であり、診断や治療方針を示すものではありません
- 側弯症の診断は X 線などの画像検査に基づいて医師が行います。 本記事の割合から自己判断しないでください
- 背中の痛み・しびれ・急速に進行する左右差・呼吸の症状がある場合は、整形外科を受診してください
- 割合は特定の集団(トルコ・単一施設・思春期)での報告であり、個人の状態を予測するものではありません
まとめ
- 漏斗胸 166 人・鳩胸 85 人を含む 268 人の診療記録から、姿勢所見の割合が報告された
- 漏斗胸群:前方頭位 90.3% / 巻き肩 81.7% / 胸椎後弯 67.1% / 側弯 50.7% / 前方骨盤傾斜 27.1%
- 🔴 側弯 50.7% は診察ベース。X 線で Cobb 角 10 度以上と定義した系統的レビューでは 13.1%——評価方法で約 4 倍(≒ 3.9 倍)変わる
- 実践家観察の「約 95% に巻き肩+骨盤前傾」に対し、今回の骨盤前傾は 27.1%。「ほぼ必発」とは言えない
- 鳩胸のほうが胸椎後弯・側弯・肩の非対称・腰椎前弯増強で有意に高い。前方頭位・巻き肩・骨盤傾斜には差がない
- 🔴 対照群がないため、「漏斗胸だから多い」とは言えない
- 思春期・単一施設・後ろ向きという限界がある
数字が並ぶと、それだけで何かが分かった気になります。でもこの研究に関しては、割合そのものより「その割合がどう測られたか」のほうが情報量が多い、というのが読み終えた感想でした。
本記事は、Kahraman Esen ら(Medical Science Monitor・2026・CC BY-NC-ND 4.0)の後ろ向き観察研究を中心に、van Es 2022 の系統的レビューと突き合わせて整理したものです。対照群がなく、思春期の単一施設データであるため、成人への一般化はできません。