「胸の凹み、どれくらい深いの?」と聞かれて、答えに困ったことはありませんか。

漏斗胸の世界では、この「どのくらい」を数値で答えるための指標があります。 それが Haller index(ハラーインデックス・Haller 指数)です。

この記事では、Haller index の計算方法・重症度区分・手術判断の目安、そして計測の限界まで、論文ベースで整理します。

Haller index とは何か

Haller indexは、胸郭の CT 画像 で計算される、漏斗胸の重症度を測る最も標準的な指標です。

計算式はシンプル:

Haller index = 胸郭の横幅 ÷ 胸骨と背骨の最短距離
  • 胸郭の横幅:肋骨の内側どうしの最大幅
  • 胸骨と背骨の最短距離:凹みが深いほど小さくなる

つまり、胸の凹みが深いほど分母が小さくなり、Haller index は大きくなる

正常な人では Haller index は約 2.0 前後。漏斗胸の人は 2.5 以上になることが多いです。

重症度の区分

漏斗胸患者の Haller index は、以下の 4 段階で評価されます。

Haller index の重症度区分

Haller の原著および小児外科の標準分類

正常
2.0 未満
軽度
2.0〜3.2
中等度
3.2〜3.5
重度
3.5 以上

重症度

手術判断の目安:3.25 以上

外科的介入(Nuss 法・Ravitch 法)の検討対象として、最も広く使われる目安が Haller index 3.25 以上です。

ただし、これはあくまで 目安であって、画一的な基準ではありません。

  • Haller index が 3.25 を超えても、本人が「気にならない・症状もない」ケースもある
  • 逆に 3.0 未満でも、心機能・呼吸機能・精神的苦痛が強い場合は手術検討に進むことがある

実際の判断は、Haller index + 自覚症状 + 心肺機能検査 + 患者の希望の総合評価で決まります。

なぜ Haller index だけでは判断できないのか

ここからが、Haller index の 限界の話です。

限界 1:呼吸で値が動く

胸郭は呼吸のたびに広がったり縮んだりします。 ということは、CT 撮影のタイミング(息を吸った瞬間か、吐いた瞬間か)で Haller index の値も変わります。

つまり、同じ患者でも撮影タイミング次第で「軽度」になったり「中等度」になったりするということ。 1 回の CT 値だけで重症度を断定するのは、思った以上に脆い判断です。

限界 2:精神的苦痛とは無相関

もう 1 つの重要な限界が、「Haller index が高い人ほど苦しい」とは限らないことです。

同様に、Sesia 2018 では Haller index と AHI(無呼吸の重症度)にも相関がない(r = -0.068, p = 0.715)ことが示されています。

  • 軽度でも苦しい人がいる
  • 重度でもケロッとしている人がいる

つまり、Haller index は 物理的な凹みの深さを表す指標であって、その人の生活への影響度苦痛の強さを表す指標ではない。 この点は、漏斗胸と向き合う上で最も重要な事実の一つです。

詳しくは別記事「胸の凹みの深さでは、苦痛は測れない(準備中)」で扱います。

限界 3:身体所見だけでは測れない

Haller index は CT 画像が必須です。身体を外から見ただけでは測定できません。

「家で測ってみたい」という気持ちは分かりますが、外から定規で測る方法は存在しません。 医療機関での CT 撮影が必要です。

計測の現実:誰が・どこで・いつ測るのか

項目内容
誰が測る放射線科医・小児外科医・呼吸器外科医
何で測る胸部 CT(造影なし可)
撮影タイミング吸気時(息を吸った状態)が標準
費用の目安保険適用で 3,000〜10,000 円程度
必要な紹介外科外来からの依頼が一般的

自分で測る方法はある?

結論:ありません(少なくとも信頼できる方法は)。

「鏡で見て深さを測る」「定規を胸に当てる」といった方法はネット上にありますが、Haller index の本来の定義(CT 画像での 2 軸計測)とは別物です。

ただし、進行を自己観察するという意味では:

  • スマホで定点写真を撮る(同じ姿勢・同じ照明)
  • 月 1 回・同じ条件で記録
  • 体重・姿勢・呼吸の自覚と一緒に記録

このアプローチは、Haller index の代わりではなく 「自分の身体の変化を追跡する」記録として有用です。

まとめ

  • Haller index = 胸郭の横幅 ÷ 胸骨と背骨の最短距離
  • 正常 2.0 未満/軽度 2.0〜3.2/中等度 3.2〜3.5/重度 3.5 以上
  • 外科的介入の検討目安は 3.25 以上
  • ただし「軽度なら苦しくない・重度なら苦しい」とは限らない(精神苦痛・OSA 重症度と無相関
  • 呼吸で平均 1.1 ポイント変動するため、1 回の値だけで断定するのは脆い
  • 家で測る信頼できる方法はない(CT が必要)
  • 進行追跡には 定点写真 + 自覚症状ログが現実的

Haller index は、漏斗胸を語る上で欠かせない指標です。 ただし、数値の意味と限界を両方知った上で使うべきだということ。 「数字が低いから大丈夫」「高いから絶望」のどちらでもない、ということを覚えておいてください。

漏斗胸の全体像についてはこちらの総合解説を、Haller index と関連する睡眠時無呼吸についてはこちらの記事を参照してください。